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ノミアレルギー性皮膚炎

>>>猫のノミアレルギー性皮膚炎とは?

猫にしばしばみられるアレルギー性皮膚炎は大きく分けると、ネコノミをはじめとするノミ類、食物、そしてそれ以外によるアレルギーの3つに分類されます。その中でもノミアレルギー性皮膚炎とは、ノミ唾液腺に含まれるたんぱく質などの物質が抗原として摂取されて引き起こされる「過剰な免疫反応」のことをいいます。これはノミによる吸血はこの唾液により血液を固まらせ難くして行われるためです。

アレルギー反応には大きく分けて、直ちに生じる即時型反応(Ⅰ型約1時間以内)と、時間をかけて生じる遅延型反応Ⅳ型・24~48時間以内)があり、猫のノミアレルギーにはこれらのしくみが各々関与しているといわれています。

ノミは動物の体表面に寄生する1.5ミリ前後の小さな外部寄生虫です。世界中で2200種類以上が認められておりますが、犬猫に寄生するのはネコノミCtenocephalides felis)、イヌノミCtenocephalides.canis)をはじめとする数種類 です。猫に寄生して病害を引き起こすノミのうち最も一般的なものがネコノミであり、犬にも猫にも共通して寄生します。(下写真参照)

近年では、屋内飼育の猫にはノミ予防率の向上や高層化、気密化など生活環境の変化によりその発症率は減少していますが、ノミアレルギーは今だに猫で最も多くみられる皮膚疾患の原因のひとつです。

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>>>猫のノミアレルギー性皮膚炎の症状は?

本来はネコノミ宿主の猫に対してアレルギーを生じにくい傾向があります。そういった猫ではノミに咬まれても軽度の掻痒(かゆみ)や小丘疹(ブツブツ)ができる程度で治癒します。
一方、アレルギーを示す猫では、比較的強い掻痒を伴って腰背部に広範囲に生じる丘疹としてみられる皮膚病変の「粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん)」が典型的です。こうした猫では強い痒みのため、同時に全身性の自己損傷性脱毛好酸球性局面(※)無痛性潰瘍などが認められます。しかしながら、これらの症状は多くのかゆみを伴う皮膚疾患と類似するため、外観だけでは区別が困難です。下写真がノミアレルギー性皮膚炎での腰背部に発生した典型的な病変です。

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ノミアレルギー性皮膚炎は1歳以上のほぼすべての年齢で起こり、ノミの数が最多となる夏~秋にかけて症状が悪化しやすくなります。近年では、冬の寒い時期でも暖房をよく使うご家庭では室内でノミが容易に越冬して繁殖するため、一年を通じて発症することもあります。

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※好酸球性局面(こうさんきゅうせいきょくめん)とは、小さなブツブツした丘疹が集まって扁平に盛り上がったものです。直径が約1㎝以上の皮膚病変を「局面」と呼びますが、その表面は出血しやすいピンク色の柔らかい肉芽組織に覆われて正常な皮膚を置き換えてしまったものです。局面は炎症と強い痒みや不快感を伴なって大きな病変となり易く、猫が気にして舐めることでさらに悪化させてしまいます。

好酸球性局面はその表面にアレルギーに関係する白血球好酸球浸潤を伴うのが特徴です。ノミアレルギー性皮膚炎の他に、その他のアレルギーや原因のはっきりしない原因による好酸球性肉芽腫症候群でもよくみられます。

 

>>>猫のノミアレルギー性皮膚炎の診断は?

ノミアレルギーは、症状が他の皮膚疾患と非常に似ているため、それだけで他の皮膚病と区別することは困難です。ノミ成虫虫卵、その排泄物(糞)を発見できれば、診断の大きな手掛かりとなります。重度のアレルギーでは、激しい痒みのため過度のグルーミングによりノミが除去されてしまい認められないことが多くありますので、ノミ取り櫛(くし)などを用いて被毛の間からノミの糞を探します。
ノミ糞の特徴は数ミリ程度の黒色の「」状で、湿らせたティッシュペーパーなどに押し付けると、吸血した血液成分が溶け出して滲んで赤褐色となるため、ほかのゴミと区別することが簡単にできます。

その他には、年齢が1歳以上であること、発症に季節性があるか、猫に外出する習慣があるか否かなど、飼い主からの問診が重要となります。

 

>>>猫のノミアレルギー性皮膚炎の治療は?

まず重要なのは、猫の体の表面に寄生しているノミ成虫駆虫と、環境中に存在するノミ虫卵(さなぎ)の駆除を同時に行うことです。

ノミ成虫駆虫は各製薬会社から多くの効果の高いさまざまな滴下剤が発売されています。卵の「ふ化」や成虫への成長を妨害する効果を併せ持つような薬剤もあり、その選択肢はかなり豊富ですので、動物病院にご相談ください。(下写真、左からレボリューション、アドボケート)
こうした薬剤ノミライフサイクルを考慮して駆虫剤が効果を発揮するように少なくとも2~3か月は使用を継続する必要があります。

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ところが、猫の体表面に寄生しているノミ成虫駆除しても、環境中に存在する虫卵や、(さなぎ)状態のノミが残っていれば繁殖して環境中に生存しているノミの再感染が起こります。このため、環境中に潜むノミを清掃や家庭用の噴霧剤などを用いてできるだけ除去することで、ノミ駆虫剤の効果を最大限に高めることができるでしょう。

ノミのライフサイクルを下図に示します。(バイエル薬品のページより引用)
->ペットのためのヘルスケアLibrary

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ノミ駆除と並行して、ノミアレルギー性皮膚炎を起こしている猫に対しては、皮膚炎症を消失させて痒みを抑えるためにプレドニゾロンなどの全身性のグルココルチコイド副腎皮質ステロイド薬)を使用します。
薬を内服することが難しい猫には、2週間程度にわたって作用するメチルプレドニゾロン酢酸エステルの注射を使用する場合があります。猫は犬と比べて皮膚への細菌などの二次感染はあまり認められませんが、必要があれば抗生物質などを併用することもあります。

原因となっているノミ駆除が行われ、痒み止めなどの適切な対症療法が行われるならば、ノミアレルギー性皮膚炎は速やかに治癒します。
室内飼育の猫にはノミはいないという誤った先入観もあり、家庭内ではノミ成虫は発見されにくく、その寄生に気づけないことがほとんどです。愛猫の「初夏から秋にかけて起こる季節性の痒み」にお悩みの飼い主さんはぜひ一度動物病院にご相談いただければと思います。

下記のサイトでノミに関して基礎知識が得られます。
ー>杉並区獣医師会「知って得するノミの話」

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文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 宮田知花

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