しっぽ

ハエ蛆(うじ)症

>>>犬のハエ蛆(うじ)症とは?

「ウジ虫」という用語は様々な嫌悪感を表す意味において一般的でなじみのあるものですが、それがウジ虫そのものをさす場合にはハエ蛆(うじ)と呼ばれるハエ目の昆虫の幼虫の総称となります。このうち家庭環境に侵入するものには「イエバエ」、「ニクバエ」、「キンバエ」などが知られており、これらのハエウジは腐肉や汚物などに発生します。

ハエ蛆症とは、このような蛆(うじ)が不幸にも動物の体に寄生してしまうために起こる病気です。

ハエ蛆症は屋外で飼育されている犬が発症しやすく、特に高齢犬や衰弱している犬に多い傾向があります。こうした犬では褥瘡(じょくそう、床ずれ)が生じて化膿しやすく、また、動きに制限のある動物は排泄の問題を生じていることが多く、糞尿に汚れた皮膚がハエを誘引してウジに寄生されやすくなります。
その他にも、体表面の自壊した腫瘍皮膚炎、下痢便の付着や失禁による尿漏れなど体表面や被毛への糞尿の付着で不衛生な場合にはハエ蛆が発生しやすくなります。

 

>>>ハエ蛆(うじ)症の症状は?

ハエ蛆を誘引する皮膚炎褥瘡などの皮膚損傷腫瘍や糞尿で汚染された皮膚皮下組織へウジが寄生しますが、もともとあった異常部位とその周辺組織はウジの寄生と穿孔(せんこう、穴が開くこと)によって新たな組織損傷炎症が拡大します。
ウジは何らかの損傷をうけたり壊死した皮膚皮下組織に侵入して傷んだ組織を食べ続けながら活発に皮膚表面皮下を移動するため、激しい痛みや不快感を生じます。こうした不快感から不眠になったり、鳴き続けたりすることもあり、こうした状態から飼い主さんが異常に気付くこともしばしばです。

ハエ蛆の寄生が起こりやすいのは糞尿に汚染されやすい体の後ろの部分で、特に密度の高い被毛に覆われた部位では見つかり難く重症化しやすい傾向があります。また、肛門周囲ハエ蛆寄生が起こった場合、ウジが皮下組織から直腸へ達したり、肛門から直腸へ侵入することあります。

下の写真は患部を中心として広範囲に被毛を除去して、ハエ蛆を除去した後のワンちゃんの写真です。(初診時の写真は刺激が強いので治療後の写真を掲載しています。)屋外飼育の高齢犬で、寝たきり状態によって褥瘡(じょくそう、床ずれ)ができ、そこを発端にウジが寄生したようです。
黄色矢印の先に大きな皮膚欠損があり、その内部の脂肪筋肉組織が露出しています。治療前にはこの部位を出入り口にして、ちょうど「ピンク色~褐色に変色している皮膚」の下のあちこちに空洞があり、そこに大量のウジが寄生していました。

ハエ蛆症.jpg

 

>>>ハエ蛆(うじ)症の診断は?

ハエ蛆症の診断は被毛の奥や皮膚欠損していたり潰瘍(かいよう)をつくっている部位、皮下組織に通じる瘻管(ろうかん、トンネルのような構造)の中などにウジを見つけることで診断されますが、大量のウジが寄生していても飼い主さんがそれを発見できずに来院することもしばしばです。
ウジは何らかの刺激を受けた際には奥に逃げ込む習性を持つため、ウジの寄生部位が入り口の小さく奥まった場所の場合には発見が難く、寄生部位が被毛におおわれている場合にはそこに巧妙に隠れる性質があります。

 

>>>ハエ蛆(うじ)症の治療は?

まず、ウジをできるだけ取り除くために、ウジが寄生している部位を含めて広範囲の毛刈りを行う必要があります。被毛に覆われた部分にウジが逃げ込まないようにするのが理由のひとつですが、被毛を除くことで皮膚の状態を確認しやすくしたり、清潔に保つ目的もあります。また、ウジは寄生している場所からトンネルのように皮下を伝って離れた場所に移動することもあるのも広範囲に毛刈りをする理由です。

ウジは1匹づつピンセットなどで注意深く潰さないように取り除いていきます。100匹以上のウジが寄生していることもよくあることですから、時間と根気のいる作業になります。
傷口から皮膚の下まで奥深く入り込んでしまっている場合にはウジが寄生している皮下のエリアを圧迫したり、傷口を密閉して酸欠状態にしたりしてウジが出てきたところを取り除いていきます。ウジは呼吸をする必要があるため、酸素が取り込めない深さまで深く入り込むことはありません。
ハエ蛆皮下に空洞をつくってそこに寄生するなど、外部から取り除けない場合は皮膚切開して取り出すこともあります。さらに、たくさんのトンネル状の瘻管(ろうかん)にウジが散らばって寄生していたり、寄生部位が広範囲に及んでいるなどの理由で取り除くことが困難な場合には、取り出すことを諦めてイベルメクチンなどの駆虫薬によって幼虫を体内で駆虫することもあります。

ウジを取り除いた後は適切な抗生物質投与や、残存している壊死組織の除去を繰り返し行い、傷口の管理をいたします。一般的にハエ蛆寄生を受けた組織は余分な壊死物がウジに食べられてかなり除去されており、体の持つ再生のしくみがより有利に働くことから、そのほとんどは早期に治癒します。
余談になりますが、こういったウジの持つ「傷口を治す能力」はマゴットセラピーと呼ばれる治療方法として糖尿病などを原因とする壊死組織の除去を目的として人間の医療分野で行われています。
ー> マゴットセラピーとは?

傷口が治癒した後は、ハエ蛆を誘引する原因となっている皮膚病損傷腫瘍治療を実施して、定期的なシャンプーなどによる不衛生環境の除去、ハエの忌避やハエを近づかせないような管理を飼い主様にお願いしています。

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文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 中山 光弘

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