船橋、西船橋にある動物病院です   診療内容 犬、猫、フェレット、ウサギ、ハムスター。その他の動物についてはご相談ください

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年末年始はご注意を!

2022年も残すところあとわずかとなりました。
いつの間にやらあと2週間足らずでクリスマス本番ですね。

新型コロナウイルスによる外出自粛の影響の余韻はまだまだ残りつつも、街にはクリスマス一色な景色が戻りつつあるように思います。

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ところで、日本での最初のクリスマスは、かの有名なフランシスコ・ザビエルが来日した時代、江戸時代が始まるちょっと前の西暦1550年くらいにまで遡るそうです。
この時代はというと、キリスト教徒がまだキリシタンなどと呼ばれていた大昔です。。。

もちろん現在の”商業的クリスマス”とは似ても似つかない純粋な宗教的習わしであったのでしょうが、それを無理やりつなげると、我が国における”クリスマスみたいな風習には意外に長い歴史があるといことなんでしょうね。

現代の我々はというと、毎年毎年、同じような風景の中で同じようなメロディーを聴き、LEDやプロジェクションマッピングなどで年々パワーアップするイルミネーションで街のあちこちが彩られる中、あたふたと消費生活に翻弄されるわけですが。。。

まあ、イブの夜は年々賑やかさを増していますが、日本人による日本人のためのクリスマスの原風景みたいなものはここ数十年はあまり変わってはいないようです。。。

今年も、ああ年末だなー、大晦日に向けてあと少しで今年も終わるという感傷的なボルテージが一気に高まり始めるタイミングでもあります。

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この辺りで本題に入りたいと思います。。。
動物病院には師走、特にクリスマスからお正月の年末年始にかけてのイベント最盛期にはやはり、いつもと違うパターンで患者さんがいらっしゃいます。

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特にクリスマス前後から大晦日、年明けにかけて頻繁に見るような、実にさまざまな原因による大小の胃腸のトラブルや問題を訴える患者さんが明らかに増えるのですが、今回はこの切り口で考えていきたいと思います。

「胃腸の問題」といってもその程度はいろいろです。軽い嘔吐下痢などの軽いものから、直ちに内視鏡検査胃カメラ)を要するような事例、骨や食材が異物となって生じる腸閉塞を筆頭とする急性腹症開腹手術に至る重症例まで実に幅の広いものなのです。

こうした胃腸の問題を全部引っくるめた、最初の”嵐”が「クリスマスイブ」にやってきます。

我々、獣医療関係者にとっては、何やら不謹慎ではありますが、”サンタが街にやってくる♪”などという曲とともに病気や事故もやってくる、とでも言いましょうか。。。

では、クリスマスに起こりやすいこうしたトラブルの原因とは何でしょうか?

まず、この時期には動物達(人も)が普段食べないような、扱いなれない”贅沢な食べ物”が家庭内にどんどん持ち込まれること、それにつきます。
また、小さな子供達が学校から解放され、家庭内に戻ってくるということもそれに拍車をかけるかもしれません。

クリスマスには動物達には魅力的で、場合により危険な食品やその廃棄物が家庭に溢れかえります。アルコールも入って、ついついその場の盛り上がりやノリで、まあいいだろうとつい色々なものをあげてしまう機会も飛躍的に増えるでしょう。

いつもより盛りだくさんのテーブルからこぼれ落ちるご馳走、ゴミ箱に入ってもなおその魅力を失わない残り物、脇が甘く格好の標的となる子供達、酔いが回ったお父さん、など直ちに問題を生じるようなトラップがたくさん仕掛けられています。

イブの夜には、クリスマスチキンなどの骨類や肉のカタマリやクリームなどの高タンパク高脂肪、大量の砂糖類など、いつもと違う一風変わった食材や調味料など、その原因には事欠きません。そもそもの食べ過ぎも相まって嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸トラブルが数多く発生します。
また、生ケーキなどのデザートなどに含まれるチョコレートナッツ類アルコール類などによる中毒なども増えます。
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まず、クリスマスチキンをはじめとする骨を含む残飯の盗食に細心の注意を払いましょう。
実は骨だけではなく、クリームがついたケーキの包装やろうそく、クリスマスプレゼントの犬用おやつやオーナメントもこの時期に消化管閉塞などの原因としてありがちな異物です。

事例として多い鳥骨はその大きさや形状から、慌てて食べた小型犬種で特に咽喉頭部(のど)や食道に詰まりやすく、食道閉塞などをはじめとする命に関わる急性消化管閉塞を引き起こす可能性があります。
こうした場合、異物となった骨の除去のためにクリスマスイブの夜に緊急の内視鏡手術を要する確率は相当高くなります。
過去の関連記事で食道閉塞に関して説明してありますのでご興味のある方は当院過去ブログをご覧ください。
>危険な食道閉塞に関して

また、食道を通り抜けるくらいには小さくなった鳥の骨などの異物をある程度含むものを一気に食べ過ぎると、胃運動の低下や胃液の不足によってこれらを充分処理できずに急性胃拡張を起こすことがあります。
さらに、そうした胃で処理しきれない食事の塊や骨などを含む胃内容物が時間の経過とともに下流の十二指腸以下の小腸閉塞を引き起こす可能性もあります。

最悪の場合、急性胃拡張の治療のために、緊急の麻酔下での胃洗浄胃腸切開などの外科手術に追い込まれる可能性もありますし、手術に至らずとも急性膵炎や、入院が必要になるような重大な消化器疾患合併症つながることもしばしばですので、くれぐれご注意を。

また、普段食べ慣れていない高脂肪高タンパクの食材だけが問題を起こすだけではありません。通常の食材でも、食べ過ぎによって思いがけないような激しい急性胃腸炎急性膵炎の原因となりますので、食事量が増えやすいこの時期には特に注意を払って頂きたいと思います。

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次に犬猫に危険な食材として有名なチョコレートですが、クリスマスシーズンのチョコレート中毒(テオブロミン中毒)には実はバレンタインデーの時期と同様にしばしば遭遇します。
英国での調査研究ではチョコレート中毒の発生はクリスマスになんと平時の4倍も増えるという調査結果が出ています。

もともと12月には我が国でも欧米には及ばないようですが、チョコレートそのものの消費もバレンタインデーで大量消費される半分くらいまでには増えるということです。

加えて最近ではクリスマス用のケーキも生クリームたっぷりのいちごケーキ以外の選択肢も増えました。
製菓用チョコレートで作る愛情、カカオマスともにたっぷりの手作りチョコケーキはかなり危険ですし、市販品の贅沢に生チョコを大量に使用したものなども多く出回っていますので、ご家庭ではくれぐれもご注意ください。

少量だからと、ついついあげてしまったりしてしまいがちですが、実は小型犬では容易に中毒量致死量に達しやすく、命に関わる事例もしばしば生じます。特に最近多い体重が2キロ以下のチワワやトイ・プードルなど小型犬種で重い中毒症状を引き起こし、死亡率が高くなる傾向がありますので注意が必要です。

ちょこっと目を離した隙に大型犬でホールケーキをまるごと、小型犬でもビックリするくらいのことがありますのでご注意を。。。また、少数ですが猫での事例もあります。

チョコレート中毒に関しては過去の記事がありますので参考になさってください。
>チョコレート中毒とは?

ここまで長文を最後までお読みになっていただき、ありがとうございました。

皆様にとって楽しいクリスマスと幸せな新年が訪れますように!

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あいむ動物病院西船橋
井田 龍

真夏の湿疹 ~ホットスポット

梅雨も明けて、夏本番ですね。。。

気温も連日のように30度を超え、35度を超えるような日も珍しくありません。
昨今は夏の気温上昇のテンポもそうですが、日本国は名実ともにあらゆる変化においてまるで皆茹でガエルのような状態ともいえなくはありません。

巷で言われる気候変動の影響なのか、今まで温帯気候だったはずが着実に亜熱帯かそれ以上のような未体験ゾーンに近づいているようにも見えます。

人間はもちろんしんどいでしょう。
しかし、その傍らに寄り添うわんこ達は夏でも脱ぐことのできない厚い毛皮と脂肪のコートをまとっていますから、ヒトが感じるより遥かに過酷な季節を過ごしています。。。

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ところで、犬には気温、湿度の上昇とともに増えてくる風変わりな皮膚病急性湿疹があることをご存知でしょうか? それは。。。

急性湿性皮膚炎、別名ホットスポットとも呼ばれる皮膚病です。
人間ではこう言う皮膚病に該当するものがないようですが、同じく夏の風物詩、汗疹(あせも)のさらに数段上を行く”急性の皮膚病”といえば想像ができるでしょうか。。。

ワンちゃんを飼われている方なら、もしかしたら一度や二度は耳にされたこともあるかもしれません。

「ホットスポット」とは?、近年ではWi-Fiがらみの用語として使われることが多いように思いますが、本来は局地的に何かの値が高かったり、何らかの活動が活発な地点・場所・地域のことを指さすための用語です。
例えは悪いですが、もうずいぶん前になってしまいましたが、福島の原発事故で放射量が高い場所が盛んにそのように呼ばれていた、なんてのもそのひとつです。

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動物医療で使われる場合の「ホットスポット」急性湿性皮膚炎、化膿性外傷性皮膚炎とも呼ばれる、いわゆる急性湿疹のことを指します。
ホットスポットと呼ばれる理由は、皮膚の一部のエリアに突然激しい症状とともに、特徴的な外見上の変化が起きるためでしょう。

この場合の飼い主さんの訴えの特徴としてはあるパターンとして。。。

”朝起きたときは何ともなかったのに、昼過ぎにこんなコトになったんです!!!”

のように突然でびっくりという雰囲気を診察時によく感じるものです。

急性湿性皮膚炎はおおよそですが、なんと数時間、少なくとも一日以内の期間で急に発症します。
「痒い」というよりむしろ「痛み」に近い症状がみられ、”しきりに舐めたり”、”地面に擦りつけたり”しますので、患部の損傷はより大きくなってしまう傾向があります。
痛みなどの不快感が高いため飼い主さんが触ろうとしてもなかなか見せてくれない、なんていうこともしばしばです。

来院時の状態は症状も含めて様々ですが、通常は激しく舐めるために周囲の被毛には唾液とホットスポットから出る血液滲出液(滲み出る体液)などが固まってカピカピにこびりついていることが多くみられますす。
これは皮膚が広範囲に激しく炎症をおこしていることを示しており、その上の被毛はそれに伴って根こそぎごっそりと抜けてしまうことも少なくありません。

実際ホットスポットの具体的な症状ははどんなものなのか?

文章では分かりにくいので、まず下の4つの写真をご覧いただければと思います。

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次の写真は中年齢のゴールデンレトリバーです。
半日も経たずにこの状態になりました。ホットスポット上の被毛は完全に抜けてしまっており、体液と血液が周囲の被毛を濡らしています。

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次の写真は若いシーズーです。
トリミング中の急性発症です。この間わずか数時間で、あまりに急でしたのでトリマーさんが代理で来院しました。表皮は体液で濡れており、相当掻いたようで、それに一致してホットスポットが広がっています。

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次の写真は老齢のパピヨンです。
前日の夜は何ともなかったようですが、尻尾の付け根を噛んでグルグル回るということで昼前にいらっしゃいました。写真は体液でべったりくっついていた被毛を治療のために除去したところです。

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次の写真もパピヨンです。
やはり前日には何もなかったとのことですが、急に尻尾を噛みだして出血しているということでいらっしゃいました。尻尾の周り全周に渡り血液の混ざった体液が全体に付着しています。

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ホットスポットはあらゆる犬種で見られますが、アンダーコートが密生している犬に多い傾向があり、ゴールデンレトリバー柴犬、シベリアンハスキーなどではよく見られます。
発症原因は明確ではありませんが、いくつかの要因が重なり合って発症するといわれています。発症の引き金としては何らかのアレルギー、例えば食事性アレルギーノミやダニなどの外部寄生虫により発症するアレルギーや、アトピーなどが考えられています。

アレルギーなどで生じた皮膚炎の痒みなどの刺激により、舐めたり引っ掻いたりすることで皮膚損傷がさらに広がって表皮バリア機能が破たんします。すると、そこに普段から存在するブドウ球菌などの細菌が侵入、二次感染を起こして広範囲に化膿を生じます。

夏季での発生が多いこと、被毛が密に生えている犬に多く見られることから、高い気温湿度などにより表皮の代謝が変化したり、蒸れやすくなって皮膚環境が悪化することが発症要因と考えられます。冬場でも暖房の行き届きすぎた環境でもみられるようです。

ホットスポットの病変にはブドウ球菌などの細菌が観察されることが頻繁にありますが、これは主原因ではなくもともと皮膚に常在する細菌の二次感染といわれています。
人の黄色ブドウ球菌感染で見られるようなとびひ伝染性膿痂疹)のように、他の犬はもちろん、人にももちろん感染しませんのでご安心ください。
局所では激しい炎症を生じますが、全身への波及は通常みられません。

治療は二次感染の原因となっている細菌感染のための抗生物質アレルギーを原因とする強い痛みや痒みに対する抗炎症薬副腎皮質ステロイドホルモン製剤等)の投薬を行います。
病変が唾液や体液で汚れていたり、滲出液(にじみ出てくる体液)が多い場合には、毛刈りを行いホットスポット表面の清潔を保てるようにして消毒薬薬用シャンプーなどの外用薬を継続します。同時に、舐める、噛むなどの自己損傷を防ぐためにエリザベスカラーは装着したほうがいいでしょう。

経過が順調であれば、数日で次第に細菌感染炎症が軽減し、一週間弱で痂疲化(カサブタになること)して数週間程度で被毛が生えそろいます。
ホットスポットはシーズンごとに繰り返すことも多く、このような場合には夏季では室温を下げたり、被毛を短く保つ、シャンプーの回数を増やすなどの生活環境の改善が必要なこともあります。
また、アレルギーの低減のために皮膚疾患に大きくかかわるノミダニなどの外部寄生虫の予防を行うことや、場合によっては食事性のアレルギーに配慮された食材に変更するということも必要になるかもしれません。

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梅雨から夏季にかけて、動物たちを取り巻く環境は我々人間が感じる以上に大きく変化しやすいものです。

暑い夏といえば、あちこちで緊急疾患熱中症がクローズアップされがちですが、いわゆる気象病※としての体調不良や特に基礎疾患がある場合などで、例えば心臓病腎臓病などの内科系疾患の悪化など
気象病とは気温や天気、気圧の変化などの自然現象などの外的な環境の変動が、何らかのメカニズムで体調不良から病気に至るまでの体の異常のことです。人間の医療では、例えば台風や前線の通過などに伴って生じる疾患として認識されています。

つまり、この時期に注意すべきものは今回取り上げたようなホットスポット熱中症などの分かりやすい、トピック的なものばかりではないということです。

夏はただ暑く、不快なだけではありません。
近年では夏の昼間の外出に制限が出るほどですから、特に病気を持っていたり高齢動物とともに生活している方は注意深く様子を観察してあげてくださいね。もちろん飼い主さん自身もくれぐれもお気をつけください。。。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   井田 龍

”狂犬病予防”とは何か?

はじめに。。。

ワンちゃんと生活している方にとっては、春先のこの時期にお住いの自治体から郵送されてくる、毎年同じ「狂犬病予防接種のおしらせ」を手に取ることが一年の節目?のようになっている方は案外多くいらっしゃるのではないでしょうか。。。

今回はあまりにありふれていて、飼い主さんも時として獣医でさえ、それぞれの立場でなんとなく分かっているつもりでいる狂犬病とその予防について、余談も含めていろいろと書いてみました。

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皆さまは、「狂犬病予防」と聞いて何を思い浮かべますか?

もしかすると、世間一般的には、”公園に飼い主さんと犬がワイワイと集まって、獣医さんが次々と打つアレでしょ?”などという、狂犬病予防の集団接種の会場の風景が頭に浮かぶというものかもしれません。
実際に、狂犬病がいったい何なのか、何で問題になるのかがよく分からないという方が多いのではと想像します。

ワンコとの生活が長い方でも、狂犬病はとても怖い病気らしいということは分かるけれども、もう日本にはないはずなのに、”なぜ?”予防接種をしなきゃいけないのだろうと毎年、なんとなく続けていらっしゃる方が多いかもしれません。

狂犬病は半世紀以上も昔に国内から撲滅された感染症です。

もはやその病気を実体験として知る方は非常に少なくなり、戦後の出来事と同様に人々の記憶からは消え去ろうとしています。日ごろから予防行政に関わっている私たち獣医師にとっても、狂犬病は既に”教科書の中の伝染病”となって久しく、この病気への関心は高いとはお世辞にも言えません。

ちなみに私(筆者、50代)も当然この病気の実体験は当然ありません。
小さい頃に祖母から狂犬病についての逸話や生家の周りで以前あったという「野犬狩り」の話を聞かされたことがある程度です。地元は横浜のはずれでしたが、まだ野犬が出るから危ないと伝えられている場所があったと子供心に記憶しています。

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ところで上記の、なぜ狂犬病予防?”、というくだりの答えは「狂犬病予防接種」とそれに伴う自治体への「畜犬登録」、「鑑札を着けること」は犬を飼育するに上で飼い主の義務となっているからです。(答えになっていないかもしれませんが敢えてこう書きました。)

この義務というのはやった方がよいという努力目標などではありません。それは我が国で犬を飼育する上で狂犬病予防法による法律的な義務を誰であろうと負わなければならないからです。

では、同じように生活している猫は?ウサギやハムスターは?。。。
もちろん、犬以外の動物を飼う上での法律上の義務はありません。

では、なぜ犬だけなのでしょうか?

それは、人間の生活圏で起こる都市型狂犬病は犬をはじめとする人との関係の深い動物がもたらす伝染病であるためです。かつて日本国内で流行した狂犬病は犬が人にもたらす病気としての特徴を強くもっていました。

戦後に流行した狂犬病は、犬の登録義務や予防の実施のみならず、病気を発症した疑いがある犬はもちろん、野犬など感染の可能性のあるのものを排除することで撲滅に成功しました。我が国の法令義務的予防接種のしくみはこうした歴史の延長線上にあるものです。

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ところで、この狂犬病予防法に違反した場合には罰金、さらに起訴や拘留に至るまでの重い処罰の対象となる可能性があります。
ご参考までに、法律に定められた飼い主の義務に違反した場合には「20万円の科料」となっており、これは「予防接種をしなかった」だけではなく、単に「鑑札を着けていなかった」ことにも及びます。

いかがでしょうか?随分と重いと感じられたはずです。

実際にはかなりの方が法律違反を犯しているのではと推測できますが、その実態は「あまり取り締まられない交通違反」のようなものです。

つまり、”ノルマを課してまで”熱心に違反を取り締まる警察に比べると、狂犬病予防法を管轄する行政の姿勢が各自治体ごとにバラバラで総じて鈍いためです。

狂犬病予防法の義務や罰則がやや重く感じるのは、狂犬病の制圧を求められていたという法律の制定時の時代背景もありますが、この法律がいつか起こるかもしれない狂犬病の発生という”緊急事態”を想定したものであることもその理由のひとつでしょう。
狂犬病が発生していない”平時”の行政の取り締まり姿勢が”意図的に緩い”のもそういう理由かもしれません。

ちなみに当院は千葉県船橋市市川市からの患者さんが大部分を占めますが、市境にお住いの患者さんの話よると未接種世帯への督促は、市川市>>船橋市のようで、”お隣なのに船橋は緩くて、市川は厳しい”という意見がよく聞こえてきます。
市境を家一軒分跨ぐだけで自治体の対応が違うというのはどうなのかと正直思いますが、こうした行政側の都合が法律の順守を曖昧なものにしている点は否定できません。

罰則を伴う法律の運用が自治体によりまちまちで「行政の一部門のヤル気に依存する」というのはどうも困ったものです。。。

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ちょっとここで一旦、法律的な問題は横に置いておくことにしましょう。

日本国内での犬の咬傷事故は届け出だけで年間6000件はくだらないだそうです。この数字をぱっと見ると何やら少ないような気もしてきますが、実際のところはよく分かりません。
ところで、こうした事故の際に、予防をしていない犬がもし他人を噛んだりケガをさせた場合、またはその疑いをかけられた場合、狂犬病未接種だった場合には意外なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか?

以前、通りすがりに足首に歯が当たったということからトラブルに巻き込まれた、おとなしい小型犬の例を経験したことがあります。そうしたまさに貰い事故みたいなものであって、仮に加害者に非がない場合でも狂犬病予防を怠っていた場合には、それはもう法律違反ですから、その一点で加害者の立場はより悪くなるわけです。

咬傷事故を起こしたと申し立てられた加害者の飼い主さんは、噛んだ犬が予防をしていない場合には狂犬病に罹っていないことを獣医師診断を何度も受け、費用、労力、時間をかけて証明してもらわなければなりません。

この作業を狂犬病鑑定といいますが、獣医師は時折、咬傷を起こしてトラブルに巻き込まれている飼い犬の鑑定依頼を受けることがあります。私が過去に依頼を受けた加害者の方が狂犬病予防接種をしていないという落ち度により、賠償などに関して不利な立場に追い込まれているケースを何度も見てきました。

本末転倒な話ですが、”狂犬病予防をしていない”ということは法律違反であるということだけに留まらず、犬との生活に潜む予想外のリスクを高める可能性があることも知っていただければと思います。
 

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狂犬病予防のシーズンになると、動物病院の診察室では、”うちのタロー、もう10歳だから狂犬病予防接種は受けさせたくないんだけど、大丈夫ですよね?”、”かわいそうだから狂犬病予防をしないようにできる書類をもらえませんか?”などという話が毎年、繰り返されるものです。
私自身、室内飼育の老チワワの飼い主の1人ですから、こういった飼い主さんの心情は個人的にはとてもよく理解できますが。。。

狂犬病予防接種をやりたくない”というご相談には獣医師として、ことあるごとに予防の義務を丁寧に説明を申し上げるのですが、なんだか納得いかないという気持ちを投げかけられることも少なからず経験いたします。
インターネット上でも「個人的事情」をはじめとする不要論、業界利権だとか「副作用で多数が犠牲になっている」などのデマに至るまで様々なものがみられます。

否定的なものの一部にはページビューやアフェリエイト等のために注目されやすい極論で煽るようなサイトも見受けられますが、こうしたことも含めて現行の狂犬病予防の運用の仕組みを不満に感じている方がそれなりの数いらっしゃる現れといってもいいのかもしれません。

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たくさんの意見があるのはもちろんよいことでしょうが、我々獣医師国家資格をもらって仕事をしておりますので、狂犬病予防法に基づく予防の必要性を説明してその促進するという責務を負っています。
この点には議論の余地はありません。

こうしたことは税理士さんが「税法」による納税の義務を説明したり、自動車の整備工場が車検の必要な車の所有者に「道路運送車両法」に基づく車検の義務を説明することと何ら変わらないものです。

上記のタロー君に関してのご相談を獣医師に投げかけることはつまり、”もう年だし税金もきついから今年から納税しなくて大丈夫かな?”、と税理士に尋ねたり、”クルマはあまり乗らないから車検を延期できる書類を書いてくれ”、と整備工場に直談判することと同様に意味がないことであるとお察しください。。。

法律的義務などというものは、個人的な心情で納得いかないとか面倒だと思いながらも、法律違反によるペナルティや不都合ゆえに従わざるを得ないものでしょう。狂犬病予防も表面上は業界の悪習や利権のように見える部分があるのかもしれませんが、これも国が定める国民の義務のひとつでしかありません。

なぜか狂犬病予防の「是非の矢面」に立たされることが多い獣医師ではありますが、我々には狂犬病予防法の解釈を変えたり、凌駕するような超法規的なパワーなんてものはそもそも持ち合わせていないということ、狂犬病予防事業獣医師にとっても「義務」であることも、ご理解いただければと思います。

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では「狂犬病」とはいったいどういった病気で、なぜ犬の予防接種が必要なのでしょうか?

狂犬病診断・治療の非常に困難なウィルス感染症で、毎年全世界で5万人以上が死亡する重大な人獣共通感染症、人間と動物の間で起こる感染症のひとつです。
日本国内ではすでに撲滅されており過去の感染症となりましたが、戦中戦後の混乱期には数多くの死者を出して猛威を振るいました。現在でも世界中で発生しており、アジア、アフリカ、南米が流行地域になっています。

狂犬病は一旦発症してしまうと有効な治療がなく、その死亡率は限りなく100%というなんとも恐ろしい病気です。
さらに症状が出るまでの潜伏期間が1~3か月と長いために感染に気付きにくく、その病気に感染したという診断に至らず、しばらく経過した後に発症して「けいれん」や「マヒ」をはじめとする狂犬病に特有な激しい脳神経症状を起こして、急速に死に至ります。

感染の疑いのある場合には暴露後(ばくろご)ワクチンを何度も接種してその発症を防ぐしかありません。2012年、米国で8歳の少女が奇跡的に狂犬病発症した後に生還したことが大きなニュースになりましたが。こうした例は記録の上で10人に満たない稀有なものです。

ー> 狂犬病から生還した少女―米国

狂犬病インフルエンザなどのように人から人への感染を引き起こさないため、現在の国内での感染症対策では優先度は高くありません。
ただし、罹ってしまった場合の死亡率は悪名高いエボラ出血熱ウィルスなど、あらゆるウィルス感染症を上回り、”最も死亡率の高い病気”としてギネスに記載もあるということに驚かれる方は多いのではないのでしょうか。

狂犬病は国内での発生は昭和31年以降は公式には記録がありません。このため日本は数十年の長期にわたって狂犬病清浄国となっておりますが、平成18年にフィリピンより帰国した男性が現地で狂犬病ウイルス感染し、帰国後に発症死亡したことが確認されています。

また、昨年9月に日本と同様に清浄国であったお隣の島国、台湾での発生が認められました。台湾での発生は海外からの侵入ではなく、野生動物(イタチアナグマ)によって長い年月、保持されていた狂犬病ウィルスが突如として犬に感染したものでした。狂犬病ワクチンの不足も手伝って台湾社会を震撼させたのはまだ記憶に新しいニュースでしょう。

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多くの方が「狂犬病」と聞いて想像されるイメージはおそらく下のイラストのような犬の姿ではないかと思います。

ところが、こうしたイメージは犬での狂犬病という病気を単純化したものとしては正しくもあるのですが、この病気の本当の理解や予防啓発という意味では誤ったメッセージを発する可能性があります。

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つまり、狂犬病と聞くと、”犬の病気だから人間には関係ないのでは?”という類の病名による勘違いが多く見受けられるということです。それが転じて「狂犬病が発生していないのに狂犬病予防接種が何でうちの子に必要なの?」と考える方が多くいらっしゃるのでしょう。

狂犬病は人間生活に近い動物である犬が人間への感染の橋渡しをすることが多い伝染病です。日本語で「狂犬」となっているため、犬の病気?であるとか、犬だけが関係するものという誤解がしばしば生じています。
狂犬病」は英語では「Rabies」ですが、そこに「犬だけの病気」という意味合いはありません。日本語へ翻訳する際に生じてしまった表現上の誤りがその理由です。

狂犬病の実態は人間生活に身近なのみならずなどの伴侶動物牛馬などの家畜げっ歯類などの野生動物を含めた「すべての哺乳類鳥類に幅広く感染を起こし、そうした媒介動物が人間社会に脅威を与える伝染病です。

各国で、どんな動物が狂犬病もしくは、「狂〇〇病」というかたちで脅威となっているのかはそれぞれ随分と異なります。下図をご覧になってみてください。

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※図は厚生労働省のホームページより引用しました。
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犬への狂犬病予防接種は人への感染機会の多い犬を予防することで、再び狂犬病が侵入した時に飼い犬の集団免疫によって、その蔓延を阻止するための手段です。

つまり、現在の狂犬病予防法で求められている狂犬病予防接種接種をした犬1頭への狂犬病感染を防ぐことではありません。犬の集団から人間社会への感染経路を絶つことこそがその目的なのです。
こうした仕組みをかたちづくるために、法律が定める義務的予防接種として飼い主さん達に課しているというものです。

「高齢」、「かわいそう」、「お金をかけたくない」などの個人的理由で予防接種をしないという選択権は飼い主さんにはありません。いわば罰則を伴う社会責任のひとつと言えるでしょう。

我が国で狂犬病予防が犬のみに義務付けられているのは過去に蔓延した狂犬病感染経路や、狂犬病予防法によりそれを根絶した実績があり、それが理にかなっているためです。

例えば、発生国の米国では犬だけではなく猫に対して接種義務があったり清浄国のイギリスのように義務はない代わりに、感染を疑う動物の徹底排除とする国もあるなど、狂犬病を蔓延させないための手段やルールは国により異なっており、優劣のつく問題ではありません。

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狂犬病予防接種を義務化していない西欧諸国や予防そのものを禁止している豪州を例に出して、日本の予防行政の「後進性」が動物愛護と絡めてしばしばやり玉に上がります。
しかし、国としての対応はその国が狂犬病の侵入に際して、どの点を厳格にして狂犬病のリスクに向き合うと決めたかの違いでしかありません。当然、個人の心情としての動物愛護云々とも無関係なことです。

わが国では狂犬病ワクチンによる平時からの抑止を選んでいますが、一見して煩わしくみえるこうした仕組みは、緊急時には「ワクチン済みの犬の生存を許す」という暗黙の了解を与えるものでもあるでしょう。
一方で義務化をしていない西欧諸国の場合に、合理主義の彼の国々ではその対応がどのようなものになるのか想像してみてもいいかもしれません。

動物及び人に関わる重大な感染症としては、時折ニュース報道などで騒がれる鳥インフルエンザなどが代表的ですが、その発生時には動物には治療はもちろんのこと、ワクチンさえ使われることはありません。
重大な動物の感染症を封じ込めるという目的のため、発症した動物だけではなくその疑いのある動物、さらにその地域の健康な動物を含めての殺処分が広範囲に行われるのはご存知の方もいらっしゃるかもしれません。動物たちにとってみればまさに手段選ばずのこうした事実を私たちは感情論抜きにして受け止めなければなりません。

つまり、切迫した感染症の蔓延を防ぐために、人間社会は動物達をどのように扱うか?ということに行き着くでしょう。次回の狂犬病の再流行の場合にはいかなる対応となるでしょうか?その時々の社会情勢次第ではあるでしょうが、こうした例えは決して極論ではないのです。

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人や動物の国際間の行き来がより頻度を増した現在では、国内への狂犬病の侵入の恐れはむしろ増大しているのが現状です。

わが国では海外から見境なく輸入される様々な種類の愛玩動物に対して、その検疫体制は決して充分とはいえるものではありません。むしろ、狂犬病が予想外の動物や経路から侵入することを常に想定しなければならないのが現状です。

もしかしたら既に国内に侵入して野生動物の間で犬や人間への感染の機会をうかがっている状態かもしれないのです。

さらに、日本国内では狂犬病ワクチン接種率が年々低下して、その実態はおおよそ4割を下回っています。これは国連世界保健機関WHO)が勧告している狂犬病の流行を防ぐために最低限必要とされる接種率70%を大きく下回る予防水準です。

狂犬病は撲滅された過去の病気だから、もう日本では発生しないだろうという楽観的な根拠は全くありません。

犬は太古の昔から、時代とともにそのかたちを変えながら常に人間の最良の友であるとよく言われます。しかし、その一方で、時には狂犬病という恐ろしい感染症をもたらす危険な隣人にもなり得る存在だということを私たちは忘れるべきではないでしょう。

最後に下の図をご覧になってください。赤とピンクで塗られた地域は狂犬病が現在発生し続けている地域です。それと比べると日本をはじめとする青い色の狂犬病清浄地域はわずかでしかないという現実をご理解いただき、狂犬病予防の重要性をあらためて考えてみられてはいかがでしょうか。
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※図は厚生労働省のホームページより引用しました。

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文責:あいむ動物病院 西船橋
   井田 龍

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千葉県船橋市西船1-19-28 朝日ビル1階
無料駐車場14台
駐輪場9台併設
病院前に6台と隣接する8台の駐車スペースがあります

駐車場

あいむ動物病院 西船橋スタッフ

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