船橋、西船橋にある動物病院です   診療内容 犬、猫、フェレット、ウサギ、ハムスター。その他の動物についてはご相談ください

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Medical treatment Column診療Column

ペットと新型コロナウイルス

はじめに。。。

当コラムの文章は「動物医療」から見た新型コロナウイルスの位置づけと現状に関して、医療の専門家と異なる獣医師の立場で、私見を交えて医学獣医学の視点から横断的に書いたものです。

ご覧になる方は上記の点をご留意の上でお読みください。

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令和2年の始まりと共に、中国武漢発の「新型コロナウイルス」による新興感染症武漢肺炎)の日本への蔓延に関して連日のようにメディアで取り沙汰され始めて1ヶ月少々が経過しました。
連日、メディアからもたらされる情報に多くの方が不安を抱いていらっしゃるであろうと思います。

この1月までは「武漢肺炎」と呼ばれていた感染症は2020年2月にWHO(世界保健機関)の決定により急性呼吸器疾患
COVID-19COronaVIrus Disease 2019)という公式名称を与えられました。ほぼ時を同じくして、その後、我が国への水際対策が功を奏さずに大方の予想通り国内への蔓延が始まることになります。

現在、メディアや公的機関では国内ではこの公式名称は用いず、「新型肺炎」であるとか「新型コロナウイルス感染症」と呼ぶようになっています。

この新型肺炎の原因とされる新型コロナウイルスですが、その感染経路潜伏期間といった感染症の基本情報のレベルにおいても確たるものがないまま様々な情報が錯綜しており、時間を経ても、なお全貌を見せない脅威に対する不安が日々増幅され続けています。

現在、異常に長い潜伏期間無症状感染を拡散するスプレッダーの存在など、既に知られた季節性インフルエンザなどのウイルス感染症とも明らかに異なるこの感染症の特徴から、波及する問題が国内外、各方面に波及して大きな社会・経済問題にフェーズが移行し、より複雑な状況になりつつあります。
そうした不安心理の現れか、マスクに始まりついに”トイレットペーパー”が棚からなくなるという、我々日本人がいつか見た光景を再び経験することとなりました。

当初から、こうした危機に対してその責を持つはずの政治や行政の情報発信の姿勢やリーダーシップの問題は、幾度も繰り返されてきた我が国の危機管理能力の甘さを図らずも露呈しているかのようです。
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混乱状況の下で、特に犬猫をはじめとする飼育動物とその飼い主(人間)の間で、この新型コロナウイルスがどのようにふるまうのか?

この問題は動物と暮らしている方には非常に気になる点ですが、まだそこまで社会的にも医学的にも注意が向いていないことから、あまり問題視はされておりませんでした。

人間社会が混乱した状況ですから、社会的に優先順位が高くない飼育動物においてはその代表格の犬や猫でさえ、この感染症の理解するべき実態とは何なのか、まだ分からないというレベルなのでしょう。

このような情報不足の状況や、深刻度がそうさせるのか想像できませんが、震源地の中国では感染の可能性を恐れるあまりに犬猫などの遺棄や殺害が相次いでいる、という悲しいニュースがいくつか入ってきています。

感染症の蔓延という緊急事態による社会的な混乱に際して、身近な動物たちをどのように扱うのか?

こうした問いに対して極論で考え、行動しなければならないほど、彼の国では切迫した事情があるのでしょう。。。社会体制や文化、国民性が大きく違うとはいえ、我が国でも明日は我が身となり得る問題を孕んでいます。

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折しも2/28にネット情報により、香港で新型コロナウイルスに感染した飼い主の飼育している”犬のウイルス検査”をしたところ、”弱い陽性反応”が検出されたというニュースが犬の感染例のおそらく第一報として入ってきました。
その後、1週間弱でNHKなど大手メディアで報道され始めていますので、そろそろ耳にされる方も増えてくるのではないかと思います。

ニュース内容は下記リンクを参照してください。
>NHK NEWS WEB

国内での報道では、どういった検査無症状の犬が新型コロナウイルス感染症と判断したのか、検査方法など詳細が不明なこと、ただウイルスが付着していただけという反対意見もあるようですので、これらの点に関してさらに続報を待ちたいと思います。

AFPの方が一次ソースには近いようですので、そちらのリンクも記載しておきます。
>AFP BB NEWS

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ここで、まず世間での誤解も多い、このコロナウイルスとは一体なんなのか?ということから整理していきたいと思います。

今回の騒動によって軽い咳払いは勿論のこと、日常会話はもちろん診察室でも、コロナウイルスなどと口に出そうものなら、新型コロナウイルスか?!などと眉をひそめられるような雰囲気がすっかり定着した感があります。

しかし、コロナウイルス自体が今回新たに発見された”恐怖”のウイルスというわけではありません。

国立感染症研究所のHPに解説がありますのでご興味のある方はご覧ください。
>コロナウイルスとは

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※写真と模式図は国立感染症研究所のHPより転載

コロナウイルスはもともと自然界にありふれたウイルスであり、人類だけではなく野生動物家畜飼育動物などあらゆる動物種に分布し、様々な感染症の原因となっています。

人間に感染するコロナウイルスはすでに人類に蔓延し、誰しも経験のある風邪の原因ウイルスとして4タイプが知られています。
風邪の原因の一割ちょっとがコロナウイルスによるものであり、その多くは軽症の上気道炎を引き起こします。これらは冬季に感染のピークを迎えます。

一方で、2002年~の「中国広東省」発の重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)や2014年~中東発の中東呼吸器症候群(MERS、マーズ)の原因となり、世界的に大問題となった2タイプの”危険な”コロナウイルスが知られています。
今回問題になっている「中国武漢発」のコロナウイルスは、人間に感染する7種類目、近年、人類社会に侵入してきた「新型コロナウイルス」としては3種類目のウイルスになりました。

これら3種類の動物由来の新型コロナウィルスは、いずれもを強く侵して重篤肺炎を起こす特徴があることから、もともと人間に感染して風邪を起こす「旧コロナウイルス」よりも重症度致死率が高くなっています。
こうした病原性の強いコロナウイルス家畜野生動物などを介して人類に伝搬されてきたものです。

2002年にコウモリからもたらされたSARSも、2014年のラクダ由来のMERSも、今回と同様に人類が接触したことのないために免疫を持たない、動物由来の新型コロナウイルスとして流行を起こしました。

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人類史上、今回の新たなコロナウイルス感染症を含めて次々と繰り返されてきた動物由来の感染症、例えばエボラ出血熱日本脳炎、古くはペスト狂犬病などに代表される感染症人獣共通感染症、または動物由来感染症と呼びます。
この人獣共通感染症はWHOで把握されているだけでもなんと200種類以上にも上ります。

動物由来感染症に関して、厚生労働省の分かりやすい解説がありますので、ご興味のある方は下記をご覧になってみてください。
>動物由来感染症ハンドブック

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余談ですが、近年問題になっている「生物テロ兵器」として炭疽菌ペスト菌野兎病菌ウイルス性出血熱ウイルス等の病原体のいずれもが、こうした人獣共通感染症に由来するものだそうです。

今回の新型コロナウイルスが中国武漢の研究施設から漏れたものだという、拭えない疑惑はこうした背景と、実際にコロナウイルスに関する”さまざまな”研究が行われていたということに端を発しています。

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コロナウイルス人類以外にもなどの家畜コウモリをはじめとする多種多様な野生動物に広く分布しています。
もちろん動物医療の対象となるようななじみ深い飼育動物猫、フェレットなどにもそれぞれの種に固有な多くの種類のコロナウイルスが存在します。

このうち、動物医療では全身感染を起こすコロナウイルスとして致死率の極めて高い猫伝染性腹膜炎ウイルスFIPV)が特に有名です。
このウイルス無症状で常在したり、腸炎の原因となる猫コロナウイルス(FCoV)遺伝子変異により病原性の極めて強い猫感染性腹膜炎ウイルスに変化したものと考えられています。

にも腸炎の原因となる犬コロナウイルス(CCoV)がいくつか知られています。このウイルスにより引き起こされる腸炎病原性はそれほど高くはないものの、糞便に大量に排泄されたウイルス経口感染により容易に他の犬に拡散します。
繁殖施設などの飼育密度の高い環境で流行を起こすため、犬の混合ワクチンの一部には犬コロナウイルスに対するワクチンを含む製品があります。

さらにには、少ないながら呼吸器感染を起こす犬呼吸器コロナウイルス(CRoV)や全身に致死性感染症を起こす変異株の存在も知られています。

フェレットでのコロナウイルス感染症は2種類知られており、それぞれ流行性カタル性腸炎(ECE)と呼ばれる腸疾患と、近年明らかとなったフェレット全身コロナウイルス(FRSCV)関連疾患が知られています。
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犬猫などの伴侶動物のコロナウイルスによる感染症は身の回りに広く分布しており、そこには同じように無症状でウイルスを保有する健康な動物も含まれます。

こうしたコロナウイルスが人間に感染症を及ぼした例は知られていません。
また遺伝子変異を起こして生じる猫伝染性腹膜炎ウイルスなどにおいて、その致死率が9割以上に上る重篤感染症もありますが、そうした変異ウイルスおいても同様です。

結論として、一般的には”既知”のコロナウイルスでは他の動物種病原性を及ぼさないという種特異性が高く、イヌ→ヒトネコ→ヒトのような”種の壁”を越えて人間や他の動物に感染することは殆どないとされています。

もちろん、今回の新型コロナウイルスは以前の新型コロナウイルス(SARS、サーズ)同様に野生のコウモリ由来の可能性が言われており、少なくとも人間との”種の壁”を越えた前歴からも、さらに犬や猫との”壁”を越えてしまう可能性を否定することはできません。

先ごろ、香港発の報道であったようにヒト→犬の間の感染を疑う事例により、要注意であるという状況にはなりました。もちろん、直ちにそれが人間社会に新たな脅威になるかどうかはまだ分かりません。

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実はインフルエンザにおいては、犬や猫とその飼い主との感染をおこしたという報告がいくつもあがっています。
さらに2009年のパンデミック(世界的な大流行)を起こして多数の死者を出した新型インフルエンザにおいてもへの感染例の報告があるのです。
しかしながら、こうした感染は極めて限られた範囲で起こっており、結果的には過去、現在においても大きな問題にはなりませんでした。

また、我々獣医師にとって身近な問題として、人間の季節性インフルエンザでは”種の壁”を超えてしまう、ヒト→フェレットの感染が身近にあります。
インフルエンザの時期には動物病院にも飼い主さんから感染を受けたと思われるフェレットが時折訪れますが、今のところ問題は生じていないというのが実際のところです。

もちろん、限られた範囲でヒトフェレットインフルエンザ感染がごく普通にあるからといって、飼育動物とのイレギュラーなウイルスのやりとりを問題視しないということではありません。

むしろ危険側から考えると本来あってはならないことが意外に起こっている、ということをお伝えするためです。
飼育動物からのイレギュラーなウイルス感染は”論文の上だけ”で起きていることではない、ということです。

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人類は絶えず新たなウイルスを含む病原体の挑戦を太古の昔から受け続け、多くの犠牲を払いつつも生き延びてきました。もちろん、この先も人類とウイルスの戦いは避けようがありません。

結論としては抽象的で、だからどうなんだ?とお叱りを受けるかもしれません。

今回の新型コロナウイルスの脅威に際して、現代社会の弊害ともいえる、情報過多によるる”インフォデミック”を指摘する意見もあります。※
感染症による実害をさらに悪化させることを避けるために、極端な楽観論でも悲観論でもなく、各々が情報を整理して事実をひとつひとつ積み上げ、冷静さを失わずに正しく恐れるという姿勢が大事であろうかと思います。

インフォデミックとは感染症の世界的な蔓延の意味のパンデミックをもじった造語で、さまざまな”情報”が世の中に蔓延して起こる悪影響のことです。

このコラムがご覧の皆さまの情報の糧として、どの程度の役割を果たせるでしょうか。
今後もしばらく続くであろう新型コロナウイルス感染症を”正しく恐れる”ための基礎知識として、何らかの気づきのきっかけとして、多少なりともお役に立てれば幸いです。

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最後に。。。

 WSAVA(World Small Animal Veterinary. Association)、世界小動物獣医師会という世界的な獣医師のグループがあります。

この組織がこのコラムの執筆時点で、2020年3月7日更新の指針を発表しています。日本語訳ページのリンクは以下のとおりですので、ぜひご覧になってみてください。

「新型コロナウイルスと伴侶動物」

また、2月11日時点での「新型コロナウイルスと伴侶動物についてのガイドライン」を発表しており、獣医療関係者が下記の通り説明をするよう求めています。

◯十分に衛生状態を保てる限りは飼っている伴侶動物と一緒にいること 
◯ 猫は屋内にとどめておくこと
◯もし家族や友人で入院している者がいる場合は動物を預けに出すこと
◯ 不安がある場合は速やかに獣医師に相談すること

なお、上記に関する日本語訳ページのリンクは以下のとおりです。

>「新型コロナウイルスと伴侶動物についてのガイドライン」

ご参考になさってください。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   病院長 井田 龍

チョコレート中毒

2月14日、今年もバレンタインデーがやってきました。。。

例年通り、心のこもったものからそうでないものまで、悲喜こもごものチョコレート贈呈式が全国で繰り広げられることと思われます。
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この時期に家庭内で多発する犬(まれに猫)の中毒として「チョコレート中毒」はあまりに有名です。
”犬の飼い方”的な書籍やSNSなどネット情報でも、注意すべき中毒として筆頭に取り上げられていますので、多くの方はよくご存知ではないでしょうか。

チョコレート中毒チョコレートココア、それらが含まれた”加工食品”にさまざまな割合で含まれる「テオブロミン」の過剰摂取により起こります。

このテオブロミンは、皆様がよくご存じのカフェインと似た物質で、植物由来の化学物質(ファイトケミカル)として、モルヒネコカインなどの麻薬と近縁の関係にあり、
呼吸器心臓筋肉に対して強い「興奮作用」を持っています。

テオブロミンチョコレート、その原料のカカオマス(カカオ豆)に多く含まれます。また、昔の”コカ・コーラ”エキスの原料として知られるアフリカ原産の”コーラ”という植物の実や、”強壮剤”として有名なガラナの実、茶葉にも含まれています。

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ところで、このテオブロミンですが、なぜ人間は大丈夫なのに犬は中毒を起こしやすいのでしょうか?

それは、犬ではテオブロミンの分解と排泄にとても時間がかかるため、容易に体の許容量を超えて蓄積してしまうためです。

チョコレート中毒の表れ方は様々です。
下痢、嘔吐、発熱、興奮、頻脈、不整脈、多尿、ふらつき、パンティング(息が荒くなる)、腹痛、けいれんなど多岐にわたる症状を示します。

摂取量が多い場合にはさらに昏睡状態から死に至ることもあります。

チョコレート中毒は誤食後の6~12時間程度で中毒症状が現れます。

犬は人間よりもテオブロミン代謝・排泄に時間がかかるため、チョコレートを食べてから24時間程度は中毒が起こる危険性があります。つまり、食べてしばらくして何もないからといって安心は出来ないのです。

では、チョコレートはどのくらい食べると危険なのでしょう?

テオブロミンの中毒量にはそれぞれ個体差があります。
その致死量は体重1Kg当たり
犬では100~200mg、猫では80~150mgであるといわれています。
20mg/kg程度から興奮などの軽度な異常がみられ、60mg/kgで痙攣などの強い症状が起きる可能性があります。
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意外に思われるかもしれませんが、大型犬は小型犬よりもチョコレート中毒の発生リスクが見かけ上少なくなることはご存じでしょうか。
一般家庭のテーブルの上にミルクチョコレートが10枚も20枚も置いてあることは通常ないのがその理由です。つまり、大量に食べる必要があるためです。

一方で、小型犬や小型化が著しいトイ種のような2キログラム以下の超小型犬種では特に中毒の発生リスクが高くなります。これは、大型犬とは逆の理由です。
体重が少ない方が中毒量に至るテオブロミンを一気に摂取してしまう機会が多くなります。

つまり、動物を取り巻く生活環境の影響により、チョコレート中毒は犬の体格が小さいほど、より致死率が高くなる傾向があるのです。

また、チョコレートに含まれるテオブロミン含有量は製品には詳しく記載されていないこと、さらにチョコレートの種類によっても大きな差があるということが、誤食の場合の不安を煽る結果となります。

チョコレートを含む加工菓子ではメーカーの相談窓口に問い合わせても、カカオマスの量も不明または即答できないということがほとんどであり、公的サービスの「中毒110番」でも同様です。(※)
つまり、消費者レベルでの危険性の判定が難しく、飼い主さん自らがその判断を迫られます。

(※)「中毒110番」は人間用のサービスであり、飼育動物に関しては本来は対象外です。

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もし、誤食してしまった場合のざっくりとした目安ですが、チョコレート類の1グラムに含まれているテオブロミンは下記の通りです。

・製菓用チョコレート :15mg前後
・ココアパウダー   :5-20mg
・ダークチョコレート :5mg前後
・ミルクチョコレート :2mg前後
・ホワイトチョコレート:<0.05mg

よくあるミルクチョコレートの板チョコで換算すると、1枚で約55gとしてメーカーによっても異なりますが、だいたい110~120mgのテオブロミンが含まれます。

つまり、体重5kgの犬ではミルクチョコレート5枚ほどで致死量レベルに達するということになります。

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チョコレートを誤食したという訴えで来院する患者さんの多くは、摂取量が少なかったり、もともとカカオ含有量の少ないチョコレートや菓子類の誤食であったり、結果的にはテオブロミン中毒量にまで至らならないケースが多いものです。
例えば、ミルクチョコレートや”チョコレート風味”の加工菓子類はカカオ含有量がもともと少ないため、ある程度食べても治療の必要性ないものものがほとんどです。

一方で、カカオ含有量の極めて多いダークチョコレート、「製菓用のチョコレート」やそれをふんだんに使用したホームメイドのチョコレートケーキなどの誤食には特に注意が必要です。
また当然ですが、カカオ含有量の少ない製品でも”大量”に食べてしまった場合も同様です。

チョコレート中毒を起こすテオブロミンの過剰摂取に対しては有効な”解毒薬”はありません。つまり、体に吸収される前に除去しなければならないため、中毒を回避する処置には時間制限があります。

まだチョコレートを含む食事内容がまだ充分に胃内にあると考えられる、数時間以内の段階で除去することができるならば、摂取量によらず経過は良好です。
もし、中毒量に近いチョコレートを食べてしまったと思われる場合には、あまり時間をおかずに早急に動物病院にご相談ください。

それでは、楽しいバレンタインデーを。。。ワンコのいるご家庭ではくれぐれもご注意ください。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   病院長 井田 龍

サルコペニアとは?

今回のテーマは動物医療におけるサルコペニアについてです。
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サルコペニア」という言葉を見聞きしたことがあるよと言う方は、実際、医療関係者以外では、おそらくかなり少ないものと思います。まだ、メディアなどでも取り上げられることはほとんどなく、あまり聞きなれない言葉でしょう。
実際、ホラー映画のタイトルのようなポジティブ感のない綴りも相まって、ほとんどの方が何やら”よからぬもの”を連想されるのではないかと思います。
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サルコペニア」とは、ギリシャ語で"sarx,sarcoサルコ"という"筋肉"を表す言葉と、"peniaペニア"という"欠乏、減る"を意味する言葉を組み合わせた、ギリシャ語由来の造語で1989年に人間の医療において提唱されました。
こうした言い回しは医学用語でよくみられる造語のルールで、例えば、”白血球が減る”の意味のLeuko-penia(白血球減少症)などと同じ様式です。

つまり、サルコペニアは直訳すると「筋肉減少症」のことです。

歳をとる、病気になる、偏った生活習慣などによって体重の減少をはじめとして、体の様々な機能が落ちて人体が衰弱に向かうということには誰しも納得ができるのではないでしょうか。
こうした身体機能の低下のうち、「筋肉の質」と「量の減少」に関して医学的な問題、つまり疾患として着目したものがサルコペニアの考え方なのです。
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もちろん、若い時はまだしも、歳をとれば誰しも当然、筋力も筋肉も落ちるわけだから、どこまでが正常でどこからが異常なのか、なんとなくモヤっとさせられるのが正直なところかもしれません。

では、サルコペニアと呼ばれる状態が正常な「老化現象」と異なる点はいったいどこにあるのでしょうか?

多くの方にとって「筋力の低下」や「筋肉量の減少」は自然な老化現象の一部であり、ほとんどが疾患として捉えるほどの問題ではありませんが、このサルコペニアは単なる「老化現象」にとどまりません。

サルコペニアの疾患としての考え方は、階段の上り下りなどごく当たり前の”日常生活に大きな支障を生じる、深刻な症状を伴う筋肉の減少”という、”運動を司る臓器”としての「機能不全」を特徴としています。つまり、体の最も大きな”臓器”の問題でもあるのです。

実際、筋肉は体の活動に欠かせない基礎代謝を担い、そのエネルギーとなる糖質代謝や体の老廃物となるアンモニアの処理を行なっていることが知られています。これは肝臓と同じ仕事をこなす、まさに臓器としての振る舞いです。

つまり。。。

サルコペニア ≒ 臓器不全
という図式が実質的に成り立つと考えることもできます。

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さて、ここで私たちの動物医療の現場ではどうでしょう。

動物医療においても患者動物の高齢化がものすごいスピードで進行しています。人と比べて寿命が長い猫でも20年前後ですから、単純計算で人間の5〜10倍のスピード感です。

このため、人と同じように「老化」や様々な「病気」の症状衰弱をきっかけに急速に筋肉量を減らし、人間の医療でのサルコペニアとそっくりな状態に陥っていると思われる動物達にはかなりの割合で遭遇します。

もちろん、その病気の”かたち”は人のものとは若干異なりますが、発生の仕組みは人の高齢者と根本的な原因に大差はなさそうです。

もちろん経験を積んだ獣医師は、サルコペニアとはいかなる現象であって、どのように悪化して何が起こるかということに関しては充分に理解しています。
それにも関わらず、動物医療では疾患としてのサルコペニアは用語そのものの認知度も含めて、まったく浸透していません。

動物医療では過度の筋肉減少が引き起こす現象がまだ疾患として定義されておらず、それ自体が大きな問題なんだという共通の認識はまだありません。
その理由は病気などで”筋肉が減る”ということが当たり前すぎて問題点として掴み所がない、つまり単純に灯台下暗しというところでしょうか。。。
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単にサルコペニアという現象面だけを見るならば、これは医学の長い歴史で常に患者の傍にあり続けた問題であり、1989年になって突如として”新たな脅威”が出現したわけではありません。
つまるところ、病気になれば体は痩せて、その機能を失うという誰でも知っている当たり前の現象でしかないのです。

実は、人間の医療でこのサルコペニアがクローズアップされてきた背景には、近年の”先進国”での高齢化による医療のあり方の変化が大きく影響を及ぼしています。

ざっくりすぎで怒られそうですが、昔から医学の発展とは人類を脅かす疫病、つまり感染症との戦いの歴史と言ってもいいくらいのものです。
近年では、感染症の原因となる様々な病原体の特定やその仕組みがどんどん明らかにされ、主に抗生物質の進化を中心とする治療薬の進歩により、その脅威は表面上は過去のものになりました。

そして、生活環境が格段に良くなった先進国では、その後にやってきた高齢化の進展による慢性疾患や”がん”などの病気医療の主戦場が移りました。
今でも世界的にも医療のあり方が高齢者をターゲットとして変化を遂げている真っ最中であり、特に我が国のように同時に少子と高齢化が進むような国家ではより顕著でしょう。

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実は、高齢者が医療の大勢を占めるようになったということと、サルコペニアの問題は切り離すことができません。

高齢者はそもそもの活動レベルが低い状態ですから、病気や怪我をしたり入院するなど生活環境の変化によってサルコペニアのリスクが格段に高まります。
つまり、それにまつわる問題は「医療コスト」だけではなく社会へ及ぼすコスト、高齢者という大きな集団が生み出す問題として連鎖して社会問題へと変化します。

実は、世の中では医学の問題というのは個々の患者の「病気」や「治療」という本質にして枝葉の問題だけに留まらず、むしろ政治や国の福祉、財政、経済の問題だったりと直結していますからこれは当然のことでしょう。

つまり、このサルコペニアという現象を医学的な課題として対処しないと、巡り巡って高齢者が中心となる医療がうまく回らないよという警鐘として、20世紀末でのこのサルコペニアの定義は先見性に富むものだったのではないでしょうか。

例えば、現在大きな問題となっている認知症骨粗しょう症も重症化する患者さんが社会的な問題となって初めて、これが重大な疾患であると世の中に広く認識されるようになっている、こうしたことと同じような構図でしょうか。

社会への影響を持たない”個”のみの動物医療での切り口と、高齢期医療の主体となる”膨大な人間集団”が起こす社会問題としての視点からのサルコペニアへの切り口は、そのスタートラインからして全く違うものであるのは当然でしょう。
患者さんの個々の問題の枠を超えてそれが社会の問題となり得るかどうか、こうした点からも動物医療のこの問題への無関心は、さもありなんという感じを受けます。
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ちょっと話が脇に逸れてしまいました。
次に人でのサルコペニア一次性(原発性)二次性という分類についてです。

一次性サルコペニアとは加齢性サルコペニア年齢以外に明らかな原因が考えられないものを指します。また、何らかの原因に連なって生じるとされる、二次性サルコペニアは下記の3つに分けられます。

●「活動量に関連するサルコペニア
 ・ベッド上安静、不活発な生活習慣
 ・体調不良、重力の負荷がない状態

●「疾患が関与するサルコペニア
 ・進行した心臓、肺、肝、腎などの臓器不全
 ・炎症性疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患などの基礎疾患

●「栄養が関係するサルコペニア
 ・摂食不良、消化吸収不良、食欲不振など

実際にはサルコペニアとは単なる”加齢現象”のみではなく、その多くが問題となる要因が複雑に組み合わさって”二次的”に生じる傾向があるようです。

さらに、加えて体の細部のメカニズムまでを考慮すると、下記のようなたくさんの要因が、サルコペニア発症の候補としてあげられます。
ちょっと専門的で見難いところもありますが、サルコペニアというものがいかに多くの因子によって起きているのか、ということを分かって頂けるのではないかと思います。

・身体活動度の低下
・栄養(たんぱく質)不足
・筋たんぱく質の同化抵抗性
・骨格筋幹細胞の減少、活性化不全
・運動神経と支配下にある筋線維の減少
・神経と筋線維の接合不全
・酸化ストレス
・炎症の存在(TNF-α,インターロイキン6)
・ホルモンの影響(成長ホルモン,IGF-1,DHEA)
・インスリン抵抗性
・ミトコンドリア機能低下
・アポトーシス(細胞死)
・ビタミンD欠乏と上皮小体ホルモンの過剰
・筋肉への血流量低下
・骨格筋幹細胞の活性化因子の低下?

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サルコペニア治療予防法に関しては、人では「運動負荷」や「栄養学」の側面からのアプローチが多数なされており、これらを組み合わせることが効果的だということが分かっています。
しかしながら現在のところ、上記の表にあるようなサルコペニアのメカニズムをコントロールするような薬物による治療法は、まだ人の医療分野でも確立されておりません。

人の医療では歩けなくなる前にサルコペニアの進行を止めるため、歩行に必要な筋肉を鍛える必要があり、特に筋肉に負荷をかけながら行うレジスタンス(抵抗)運動が有効であるとされています。
ここでのレジスタンス運動とはいわゆる、”筋トレ”のイメージです。

動物には日常生活の中での自発的な”筋トレ”は困難ですので、いわゆる老犬介護整形外科疾患治療の一環として行われるようなリハビリの手順が有用と思われます。
また、入院環境での寝たまま、同じ姿勢での安静を極力避けるような、さまざまな配慮が必要となるのはいうまでもありません。
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栄養学」の面からは高齢や病気による食事量の低下を極力補うために、食事のカロリーコントロールをしっかり行って栄養の不足に注意して食事を絶やさないこと、特に筋肉を作り出す元となる、たんぱく質を豊富に含む食品の摂取を増やすことが効果的です。

「骨格筋量」「筋力」「身体機能」の維持は、高齢期に不足しがちなたんぱく質の摂取量に深く関係していることが知られています。

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ほとんどの犬や猫などの伴侶動物は年齢や活動量などによって栄養組成、カロリーなどが規格化されているペットフードという「加工食品」を常食としています。
本当にペットフードだけでいいのかとか、その”必要悪”な側面はここでは一旦置いておきます。。。

ところで、こうした現実は裏を返せば、”よい面”として食事の多様性がない分、人では難しい厳密な栄養管理カロリーコントロールがむしろ行いやすい環境にあるということでもあります。

実際に多くのメーカーが治療用ペットフードである、食事療法食の分野で「年齢」「疾患」「生活環境」「嗜好性」により適応した、より優れた製品の開発にしのぎを削っています。
このため、現在では食事療法食の製品の幅は広く、獣医師の治療方針に寄り添いつつ、さまざまな条件の患者動物に合うような食事療法食を選択することができます。

サルコペニアのように筋肉の減少を起こしている高齢動物に対して、食べることや排泄に問題がなければ、人の基準のように、まずは”高たんぱく・高カロリーであるという条件を満たす療法食が考慮されることが多いだろうと思います。

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(※)高たんぱく・高カロリー食の一例

ただし、腎臓病をはじめとする疾患の罹患率が高い高齢動物での高たんぱく食を選択するには前もって医学的な評価が必要ですし、まざまな理由で”高たんぱく食”が適用とならないケースも多発します。
特に消化吸収能力の落ちている高齢、もしくは潜在的に消化器疾患を持っている可能性がある動物への高たんぱく・高脂肪な食事は下痢嘔吐などの問題を生じやすい傾向があり、些細な食事の変更であっても充分な注意を払う必要があります。

(※)食事療法食の選択は治療行為の一環として治療と不可分な関係にあります。その選択にあたり、獣医師の知見や助言を前提に設計されている製品ですので、不適切な使用を防ぐために必ず動物病院でご相談ください。

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サルコペニアに対して食事以外からの栄養的なアプローチとして、「運動療法」と合わせて必須アミノ酸の補給が有効ではないかとされています。
これは加齢により、食事だけでは体内で充分なアミノ酸量を維持できないということが、サルコペニアの原因になっている可能性があるという研究結果によるものです。
筋肉で代謝されてエネルギーや筋肉の元となる、必須アミノ酸ロイシンまたはこれを含む分岐鎖アミノ酸製剤BCAA(イソロイシン・ロイシン・バリン製剤)の有用性が期待されています。
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※動物病院でのBCAA製剤(サプリメント)の一例
⇨ ヘパテクトプレミアム(Meiji Seikaファルマ)

その他にビタミンDEPAエイコサペンタエン酸)、DHAドコサヘキサエン酸)など抗炎症作用が期待される多価不飽和脂肪酸の一部にその効能の可能性がいわれていますが、まだはっきりしない点も多いようです。
また、ビタミンCビタミンEカロテン類ポリフェノール類、それに類する抗酸化物質などによる筋肉・神経細胞の保護効果は限定的ながら可能性があるかもしれません。

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動物医療の世界ではサルコペニアはその用語の普及も含めて、それが単独の疾患として、その予防や治療の可能性のある医学的な問題であるというほどの認知度がありません。
つまり、明らかにそこにあるであるサルコペニアという現象は、高齢期での様々なトラブルを抱えた患者さんの傍にありがちな風景のひとつとして見過ごされているに過ぎないのです。

動物医療においても、高齢期の食事量や運動量の不足など不適切な「生活習慣」をはじめとして、慢性腎臓病消化器疾患などの臓器不全がんなどによる体の消耗や、関節症変形性脊椎疾患などによる運動量の低下など、いろいろな要因が筋肉量の低下を伴う体重の著しい減少を引き起こします。

しばしば経験するところですが、高齢の患者さんでは特に筋肉量皮下脂肪を含めた”体重の維持そのもの”が「体調」を良好に保つ上で不可欠であり、それが結果的に治療成績を良くする、また病気は完治しないまでも最終的に”よい治療”になることを数多く経験いたします。

高齢期での何らかの治療行為に向き合う前提として、我々治療を行う側には常に現象を謙虚に受け止めるために、患者さん側にはより良い治療を受けるために、
こうしたサルコペニアと呼ばれる現象があるということ、またそれに向きあうための「無知の知」みたいなものへの気づきのきっかけとして、当コラムがお役に立つことができれば幸いです。

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文責:あいむ動物病院 西船橋
病院長 井田 龍

 

過去の当院のブログに食事量が落ちがちな老齢犬に食事をあげるための簡単な工夫に関しての記事があります。ご興味のある方はぜひご覧になってみてください。

>高齢犬の「ごはんの工夫」あれこれ

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